【六調子とは】

「調子」とは、洋楽の「ハ長調」や「イ短調」といった「調」に当たるもののことです。雅楽では現在、「壱越調(いちこつちょう)」「平調(ひょうじょう)」「双調(そうじょう)」「黄鐘調(おうしきちょう)」「盤渉調(ばんしきちょう)」「太食調(たいしきちょう)」の六つの調子があり、「六調子(ろくちょうし・りくちょうし)」と総称しています。

壱越調 「壱越(D・レ)」を主音(宮音)とする調 呂旋
平 調 「平調(E・ミ)」を主音(宮音)とする調 律旋
双 調 「双調(G・ソ)」を主音(宮音)とする調 呂旋
黄鐘調 「黄鐘(A・ラ)」を主音(宮音)とする調 律旋
盤渉調 「盤渉(B・シ)」を主音(宮音)とする調 律旋
太食調 「平調(E・ミ)」を主音(宮音)とする調 呂旋

 それぞれの音階は、楽理上は下図のようになりますが、実際に用いられる音階とは若干のずれがあります。また、洋楽では、A=440Hz(ヘルツ)で演奏しますが、雅楽はA=430Hzに合わせますので、全体に音が少し低くなります。どの調子にも特有の旋律があり、雅楽に親しむうちに、調の区別がおのずと分かるようになってきます。

【枝調子】

 古代中国では、理論上、84もの調がありました。そのうち12の調子が日本に伝わりましたが、その後、六調子に整理されました。吸収された調子は、六調子に対して「枝調子」と呼ばれ、壱越調の枝調子には「壱越性調(いちこつしょうちょう)」と「沙陀調(さだちょう)」が、平調には「性調(しょうちょう)」と「道調(どうちょう)」が、黄鐘調には「水調(すいちょう)」が、太食調には「乞食調(こつじきちょう)」がありました(※参考:狛近真著『教訓抄』)。

【調子の姿】

 古人は、それぞれの調子のイメージを事物に例えました。たとえば、豊原統秋著『体源抄』には、次のように記されています。
○平調は、春風に柳の倒れかかるごとくこれを吹くべし。
○盤渉調 何に例えつべくもなし。ただ静かに延べて吹くべし。いずれよりも、この調子を延べて吹くべし。
○黄鐘調は、銚子に澄みたる酒を入れたるを見るがごとし。
○太食調は、板敷きの下にてコトヒノ牛の角突きをするがごとし。
○壱越調は、明障子に砂をうつがごとし。
○双調は、秋草の花咲乱れたる中に幽玄なる男、大口ばかりにて優し気ながら刀を差し、柄を握りて立つごとく吹くべし。

【雅楽の世界観】

 六調子は、古代中国の世界観である「陰陽五行(いんようごぎょう)」と深い関わりがあり、それぞれに対応する季節、音、色、方角などが決まっています。この考え方は、季節に応じた調子を選ぶなど、実際の演奏に際しても用いられてきました。これについては、平安時代の『管絃音義』という書物に記されているものが有名ですが、ここでは『教訓抄』の一節を引きます。
「時の音というは、
   春は双調 東方 木音 青色
   夏は黄鐘調 南方 火音 赤色
   秋は平調 西方 金音 白色
   冬は盤渉調 北方 水音 黒色
   壱越調は中央 土音 黄色 若紫色
 これを五音というなり。〈中略〉次に六調子というは、先の五音に太食調を加えたるなり。平調と同じ音なり。ただ呂律の音に相違あり」
 太食調は平調と同じ音を主音とするので、同じとみなされています。ただ、陰と陽のバランスを考えた場合、五音のままだと、呂旋が壱越調、双調の二つ、律旋が平調、盤渉調、黄鐘調の三つとなってしまうので、呂旋である太食調が加えられたとのことです。

【高麗楽】

 高麗楽には、「高麗壱越調(E)」「高麗平調(G)」「高麗双調(A)」の3調子があります。高麗笛の音程は龍笛より1音ずつ高いため、各調子も、唐楽のそれに対し、1音ずつ高い音を宮音としています。